日雇いの仕事で会った中年の職人と元請けの若い人と三人で話していた。楽器の話になると、職人は目を輝かせて、妻と二人でバンドをやってるからライブに来てよ、と言ってきた。こういうライブが刺さることはまず無いことをほとんどの人が経験上知っているわけで、二人でまごまごしていたら、今はYouTubeがあるから便利だね、ライブの動画もあるよってことで、別れた後でさっそく見てみた。これがもうすごくて、昔にニコニコで見た、若いギター男と若いボーカル女のまったく噛み合わないライブ動画の30年後って感じのヤバい代物だった。

昔の俺なら、やっぱりね、と小馬鹿にした態度を滲ませながら、適当に世辞言ってライブはやんわり断る的な対応になっていただろう。

でもね、そもそも、表現すること自体が素晴らしいことで、それだけで尊いんだということが分かってしまったわけで、それが分かった今でさえ、表現することを怖がっている俺なんかが、どうこう思うこと自体がおこがましいわけですよ。それがどんなものだろうと、人前で自分を表現することはとても素晴らしいと思います、頑張ってください。とは言えなかったよね、流石に。この気持ちに嘘はまったく無いのだけど、わざわざ見に行くこともしたくないし、動画を見ると、表現することと受け入れてもらうことの間にある越えられない壁の分厚さに少し悲しい気持ちになるから見たくないし、だから何も言えなくなる。だから世辞しか言えない。結果は変わらないのだけど、その過程は間違いなく変わっているし、否定から肯定に変わっているのに、そのことを伝える言葉が思いつかない。

 

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