炎上している牛乳石鹸のCMがいかに素晴らしいかを解説する

 

このCMが炎上してるらしい。新井浩史演じる父が被害妄想で腐ってるとか難癖つけられてるんだと。

んで私も見てみたのだが、これがとっても良いCMだった。

これ見て否定的なことを思う人がいるのはまあわかる。でも怒る人がいてここまで炎上するのはちょっと信じられない。まるで王様のブランチを見て憤る40歳独身ハゲ男性のような場違い感というかなんというか。やっぱりテレビを見ているのは女子供ばかりなんだなあと思わざるをえないし、声のデカイやつはバカなんだなあと。こじんまりと生きるおっさんの心情を描いたCMのひとつあったっていいだろうに、それすら世間は許してくれないようだ。ほんと息苦しい世の中になった。

 

 まあそれはそれとして、このCMの何が良いのか、妄想混じりの解説でお伝えできればと思う。

 

昭和を生きた中年男性の葛藤

 

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このCMの始まりは、父(以下新井)がゴミ出しをするところからだ。薄暗い朝のマンション前を一人歩く。この描写に現代の父親像が描かれている。余計な説明などなくても、この短いシーンだけで昭和を生きた人間には父親像の移り変わりが一目瞭然なのである。

 

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そしてバスに乗って通勤。新井は窓の外に流れる日常を物憂げな目で見詰める。

 

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一人一人が黙々と作業する仕事風景。

 

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上司に叱られる部下。 

 

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息子へのプレゼントを頼まれるやりとりはなんとも味気ない。

 

淡々と描かれる新井の日常。

 

あのころのオヤジとは、かけ離れた自分がいる 

 

家族思いの優しいパパ。時代なのかもしれない

 

CM中の新井の独白は、CMを見ている父親たちの代弁でもある。

家族思いの優しいパパとは、毎日ゴミ出しをし、予定表に書かれた息子の誕生日に残業もせず、ケーキとプレゼントを買って帰るパパのことだ。何も悪いことではないし、当人も嫌とは思っていないだろう。

 

しかしその顔はなんだか疲れている。

 

でもそれって正しいのか?

 

新井は、親父の背中を見て育った過去の自分を思い出し、葛藤する。

 

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新井も子供の頃に一人で壁当てをしていた。多分30代以上の男性も、ひとり壁当てで遊んだ経験がある人は多いだろう。オヤジは仕事をしていたのだろう。投げるボールには構ってもらえないオヤジへの怒りも少しはあったのかもしれない。

 

この広く厚い壁は、オヤジの背中を表しているのである。

 

新井はオヤジの背中を見て育ったが、年を取り、父になり、オヤジにだって色々なことがあったはずだということがわかった。今の新井のように繰り返される味気ない日常を生きていたはずなのだ。そのことになにかしら思うところがあったはずなのだ。

 

しかしオヤジは悩みや泣き言など一切言わなかった。親の背中とはそういうものだ。叱られた時のオヤジは、悩んでいる時のオヤジは、憂鬱を乗り越えようともがくオヤジはいったいどんな顔をしていたのか、新井は知らないのだ。オヤジはその顔を子に見せはしなかったのだ。

 

その時に新井は気がついてしまった。自分が浮かない顔で仕事をしていることを。家族と接していることを。オヤジも実はそうだったのか。いや、そんなことはないはずだ。なぜなら

 

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ひとり壁当てをしていた過去の自分は、一生懸命に汗をかいていたからだ。オヤジもこんな顔で頑張っていたに違いない。そして、いつからか新井はこんな真剣に顔をすることはなくなってしまった。

 

そんな思いが

 

オヤジが与えてくれたもの。俺は与えられているのかな。

という葛藤になるのである。

 

 

ここでもう一度、スクショを全て見直すか、できればCMを見直してほしい。そして登場人物はほとんど向かい合っているのに誰もが目を背けていることを確認してほしい。叱っている上司は部下の顔を見ているが、部下は上司の顔を見ていない。職場でもデスクを向かい合わせているが、誰も目を合わさない。道で行き交う人々も、みんな下を向いている。

 

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酒を飲んで帰って妻に怒られている時の新井も下を向いている。最初のゴミ出しを頼まれるシーンはお互いの主観映像になっているが、笑顔でゴミ出しを頼む嫁の後に、両手にゴミを持った新井が映るが、おそらくその時に妻はもう視界から消えていて、洗い物でもしていたのだろう。新井だけに。

 

つまり、悩み、憂鬱になっているのは新井だけではなく、みんなそうなのだ、という描写がCM全体に散りばめられているのである。皮肉にもこのCMが炎上した背景にある、他人への排他的無関心が蔓延している現実が、これらの演出を際立たせることになった。

 

そして背中。新井が背中を見せるシーンはいくつかある。

 

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ゴミ出し後の背中

 

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 女子高生に向ける寂しげな背中。女子高生の眼中には入らない。

 

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 職場

 

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雑踏の中

 

この時の新井がどんな顔をしていたか、CMを見た人なら誰もが想像できるだろう。

 

オヤジが与えてくれたもの。俺は与えられているのかな

 

葛藤がリフレインする内に、つい部下へのフォローをしたくなってしまったのだろう。背中に自信が持てない、そんな自分を変えたい。プレゼントとケーキを買った後に、ふとそんなことを思ってしまったのではないか。それは妻にとってはただ約束を破っただけに見えるだろう。しかし新井にとっては、自分と家族のことで思い悩んだ末の冒険だったのだ。

 

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家族への後ろめたさを感じながら去る誰にもわかってもらえない背中を見送る部下。

 

この別れ際で初めて、新井は目を見て言葉を交わす。それはほんの短い時間だが、新井の中でなにかが変わり始めたことを示唆している。

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新井のこの微妙な変化は、CMを見ている人にしか分からない気持ちの機微なのだが、しかしというかやはりというか、新井の気持ちは視聴者には届かなかったようだ。これが中年男性の哀しさ。

 

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家に帰った新井は、当然妻に詰められる。しかし、上に書いたような葛藤を素直に話せる夫など、どこにいるだろうか。誰かに理解できるような説明ができるだろうか。

そこで新井は逃げるように風呂へ行き、ようやく牛乳石鹸の出番となるわけである。

この辺は昭和を生きた男性特有の強がりと見ることもできるが、それは親から子へ、昭和から平成に受け継がれる日本的背中語りの文化とも言える。もちろんそれは子供と楽しく接することを否定するものではない。語っても伝わらないことがある。語らないことでしか伝えられないことがある。そういうことだ。

 

帰りが遅い新井への憤りがありながらも、新井がすぐに風呂に入れるように準備していた妻の優しさも見逃してはならない。

 

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牛乳石鹸は昔からあるんです。オヤジの背中を流したのも牛乳石鹸

 

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そして牛乳石鹸で毎日のちょっとしたモヤモヤやイライラをキレイキレイして、心を整え、気持ちを新たにするのである。新井だけに。

 

俺がオヤジの背中を洗ってる時も、オヤジはこんな気持ちだったのかなーなんて思いながら。

 

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そして妻に謝罪。恥ずかしそうにしながらも謝る時は妻の顔を見ていた。ちょっとだけだけど、新井が顔を見て話したのはこれで二度目。不器用ながらも家族ときちんと向き合うおうとする新井であった。妻もウダウダ言わないでパッと察してくれたみたいで、いい関係だなあ。こんなよくできた妻が新井にイラついてるわけないよね。

 

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そして遅ればせながら息子登場。息子に向ける新井の笑顔は、今日一日の葛藤と、ちょっとした冒険の結果手に入れた宝物なのである。

 

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そして日常に戻る。背景も新井のスーツの色も明るめになっている。牛乳石鹸が汚れを洗い流してくれたというわけだ。

 

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昨日とは打って変わってスッキリとした顔つきで会社に向かう新井。

 

そして伝説へ・・・

 

ぎゅうにゅうせっけん よいせっけん

 

 

とまあ、こんなにも素晴らしいCMなのです。

ストーリーもメッセージも演者もすべて言うことなし。

言葉で長々説明させず、短い時間でうまくまとめてる(CMとしては長いけど)。

映像作品かくあるべし、と言わずにはいられない近年稀に見る良作なのです。

 

ていうかこんなにもわかりやすく作ってるのに理解できないとかわからないって声高に言う人が多くてほんと怖い。それってすっごい恥ずかしいことなんだけどなあ。しかもそれがいい年したおっさんおばさんなんだからもう日本の白痴化がヤバすぎる。

 

 

牛乳石鹸 カウブランド 赤箱 3コ入

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