こじらせ男子とダニエルキイス
特別お題「青春の一冊」 with P+D MAGAZINE
わたしは田舎の小さな高校に通っていたのだが、高校三年生のとき、科目に新しく「選択授業」というものが加わった。といっても、選択肢は「スポーツ」か「図書」の2つしかなかった。
「選択授業」は、毎週水曜の5時限目、2年生の1クラスと合同で行うもので、内容は自習、つまり何をやってもいいということだ。わたしは工業科で、わたしの年だけ女生徒が一人もいなかった。商業科もあったので、女子は男子以上にいたのだが、わたしにとっては、男子校のような毎日だった。ホームルームで担任が「今から紙を配るからどちらか希望を書いて提出しろ」と言った。当然、クラスの男子は「スポーツ」一択だった。皆が口々に、サッカーをやろう、バスケをやろうと、とても盛り上がった。クラスには、オタクたちも数人おり、端に集まって話し合っていたが、消去法で「スポーツ」を選ぶようだった。とにかく「図書」を選べるような雰囲気ではなかった。
後ろの席の友達が「どうするん?」と言ってきたので「いや〜、俺は図書にしようっかな〜……」と答えると「なんでや?」と大笑いされた。わたしは、スポーツは得意な方だった。友達がいないわけでもない。しかし、わたしはどうしても「図書」を選びたかった。理由は2つあった。
1つ、わたしはとてもあまのじゃくだったからだ。
いつも斜に構えて、教室の隅の席で賭けトランプをしていた。とにかく、人と同じことは、絶対にしたくなかった。流行りものは、必ず否定した。みんなが「イエス」と言えば、わたしは「ノー」と言った。「どちらかを選べ」と言われたら、自分の好みよりもマイノリティな方を選ぶことを優先した。目立ちたいわけでもなく、ただ趣味の合う小さな輪の中で優越感に浸っていられればそれで良かった。
1つ、わたしはダニエルキイスが読みたかった。
当時、わたしは、山本英夫の漫画「新・のぞき屋」にハマっていた。

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この漫画を説明するには、ニーチェの
「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」
という言葉がピッタリだと思う。
その漫画の中で、家出した男子高校生の話がある。男子は生活のために中年男性に体を売るのだが、やがてその中年と心中旅行に出る、そんな内容だ。わたしは、その話がとても気に入っていて、その男子か、もしくはその男子を好きな女子が、ダニエルキイス「心の鏡」を読んでいた(と記憶している)。だから、わたしはどうしてもダニエルキイスが読みたかった。学校で、図書室で、一人で、ダニエルキイスが読みたかったのだ。
案の定というか、クラスでわたし一人だけが「図書」を選択した。クラスメイトの視線が集まり、わたしは高揚し、ちょっと後悔した。
水曜の5時限、みんながわいわい教室で着替える中、気だるい足取りでひとり、図書室へ向かった。誰もいないと思っていた図書室には、数人の女子がいた。見知らぬ女教師と、合同授業のクラスの下級生だった。男子はわたしひとりだけだった。彼女らは一切本を読まなかった。やれLa'cryma ChristiがどうだのGacktがカッコイイだの、きゃぴきゃぴしゃべくりながら、絵を描いていた。時折、わたしに細〜い視線を送りながら。昼下がりの図書室で、変態でも見るような女生徒の視線を節々に感じながら読むダニエルキイスと村上春樹は、格別だった。ちなみに、内容は全く覚えていない。

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