俺の知らないセカイ系

こないだ一緒に仕事をしたおっちゃんは今年で70になる。

このおっちゃんの人生は野球とともにある。

学生時代はもちろん、今務める会社は、過去に社会人野球選手として就職した会社だった。そして定年後に再雇用されて今も働いているのである。

野球選手としては中々のものだったらしく、プロからの誘いもきたそうだ。しかし、家庭を持つおっちゃんは社会人野球選手の方が安定しているので断ったそうだ。一応大企業だし、当時はバブルとかもあったろうし、スポーツ選手の稼ぎも今ほどではないだろうしね。

おっちゃんとの話は、だいたい野球の話になる。というのも、おっちゃんは野球選手であったこともあり、色々な高校で野球を教えていた過去があったからだ。

 

「あいつは何高で名ピッチャーやったんや」

「あいつは俺が高校で教えとったたんや」

「あいつは野球部の後輩で…」

 

今の会社にいる人たちとは、ほとんど野球での繋がりがあった。野球を通じて会社に引っ張ってきた人もかなりいるようだった。あの人もあの人もあの人も、みんな野球部上がりで、みんなおっちゃんと繋がりがあった。

 

社会人野球選手としての収入はけっこう良いらしい。地方遠征の際は出張手当が出たり、野球をやっているだけで、なんだかんだお金が稼げるのだ。そして、社会人野球選手は必ず出世するのだとおっちゃんは言う。某企業では、社会人野球部上がりの社員は支店長が確定するらしい。野球で一般社員よりもたくさん金をもらい、野球を辞めた後は出世街道が待っている。

 

ずっと野球やってたんですよね? 通常業務とかはやってなくても支店長になれちゃうんですか?

 

社会人野球選手の美味しい社会人生活をひとしきり話終えたおっちゃんは、俺が絶句しているのを見て「あほらしいやろ?」と言って笑った。

 

あほらしい、と思いながらもなんとなく理解できるのは、このおっちゃんの社内社外における野球の繋がりがものすごすぎたからだ。

 

野球が人気があるのは、こういうことなんだろう。日本において、野球というコミュニティは最大級の規模なのだ。野球さえやっていればこの世の中を生きていける、日本はそういう社会なのだ。

 

もちろん野球だけの話ではない。ラグビーや柔道でも同じような話を聞いたことがある。大学を例に挙げればたくさんの人が合点するだろう。なんならオタク的な世界やギャンブル的な世界でも、そうした力学によって組織や経済が動いているのだろう。

 

俺はそういうコミュニティや上下関係を避け続けて生きてきたが、そりゃあ生きづらいわと思わざるをえなかった。なんの能力もなくコミュニティに属さなかった俺の知ってる寄る辺は細く、おっちゃんの知るそれは太くて長くて強靭だ。規模がまるで違う。概念から違っている。

 

知ってる人には当たり前の話なんだろう。しかし俺はこの現実にここ数年で一番度肝を抜かれた。

だからといって、何度生き直しても同じ道を通るのだろうけどね。