特技とは

誰にも言えない、というよりも言っても仕方がない特技が、というか再現性的には特技とは言えなそうなのだが、いつからか目覚ましに勝てるようになっていた。

ただ単に目覚ましに勝つ、というだけでなく、目覚ましが鳴る一瞬前に目を覚ますのだ。目を覚ましてしまうのだ。

この時の感覚がとても不思議で、説明しづらいのだが、寝ている時、目覚ましを設定した時刻になる瞬間、空気が変化したような感じで意識が覚醒する。真っ暗な意識にぼんやりと黄色い明かりが灯るような感覚だ。そう感覚した時には上半身を起こしながら手が目覚ましの方向に伸びていて、音が鳴り始めたと同時に端末に触れている。音が鳴り始めてから止めるまでが多分0.5秒くらいだ。ipadのデフォルトの目覚まし音で4音目くらいには止めているのだが、その間の時間が普段の時の流れよりも少しだけ長く感じる。意識と無意識が両方働いているような感覚だ。

こんなことを書いても誰も信じないだろうし、だからといって信じられても困る。しかし、そうした朝は間違いなく私に何度も訪れている。ただそれだけの話なのである。

いつからか、と書いたが、こんな体になってしまったのがいつなのかはなんとなくわかっている。思い出したくないだけだ。だから空気が変わるあの瞬間の感覚はあまり好きではない。しかし嫌いでもない。

こうした特技めいた、特技というには少し悲しい能力は誰でも持っている、と思う。もしそんなものはないという人がいたら、その人は幸せな、もしくはおめでたい日常を送っていると言えるだろう。持っているかいないかではなく、自覚しているかしていないかの話なのだ。

ところで、目覚ましをかけても、目覚ましが本当にセットされているのかいつも不安になる。