たべられたい

昼間に散歩してたら歩道の真ん中にあるなんか緑色のモノを踏みそうになった。昆虫の交尾かと思って屈んで見たら、カマキリがカマキリを喰っているところだった。
カマキリは交尾中や交尾後にメスが栄養源としてオスを捕食するらしい。話には聞いていたが、こうして目の当たりにするのは初めてだった。注意深く観察してみる。あたりには手脚が転がっていて、一匹のありがせっせと前脚を運んでいた。

メスカマキリはオスカマキリの胸あたりをかじっていたが、私の視線に気づいたのか、かじりかけた状態で動きを止めている。胸にかじりつこうとしているメスカマキリの複眼の小さな黒点はバッチリ私と目が合っていて、食べ物と異生物を別々にかつ同時に見ているのがなんだかとても怖い。喰われているオスカマキリにはすでに首から上がなかったが、それはどこにも落ちていなかった。おそらく交尾中に頭から喰われたのだろう。

私が捕食の邪魔をしない存在であると認識したメスカマキリは、ゆっくりと胸にかじりつき、捕食を再開した。

頭の無いオスの方は、かじられるたびに腹がよじれたり手脚がぴくぴく動いている。尻から出ている二本の触覚みたいなものもうごめいていて、後でそれが性器であるとわかった。何をもって生きているとするのかはわからないけど、オスカマキリは生きていると思った。

カマキリのメスは、生殖器に入ると、妊娠や出産のために諸々の栄養が必要となるため、攻撃性がおおいに増して、動くものを捕食対象とみなすらしい。同じカマキリであっても捕食対象となってしまうのだ。それにしても交尾中や事後すぐに喰わなくてもいいだろうと思わないでもないが、まあ種の存続というやつはそれだけ切実なのだろう。

いっぽうカマキリのオスは、生涯で何度かは生殖活動ができるらしく、交尾せしめたそのメスから逃げおおせることができると、また別のところで種がまける。それは生存戦略において有効なことのようだ。しかし、もし交尾後にメスに喰われてしまったとしたら、そのメスは十分な栄養を摂ることができたおかげで、通常よりもたくさん卵が産めることがわかっている。喰われずにほうぼうで種をまくのも、その場でメスに喰われるのも、種の存続という意味ではどちらにも有利な点があるのだ。

なんだか人間のように思えてきた。人間のオスは物理的に喰われていないだけで、時間や労力を費やして得た金を長い間メスに捧げ続けている。その金で交換した食い物で子供を産み、育む。このご時世、やや時代錯誤な考えになりつつあるが、現実にはこのような家族の在り方が一番多いのではないか。

歩道の真ん中に座ってそんなことを考えていたら、犬の散歩をしていた人が私を避けるようにして通り過ぎていった。