裏窓

まだクーラーが効いていない朝の国道をだらだら走っていた私は思わず目を剥いた。

前を走っていた軽自動車の助手席から突然、運転手に向けて力一杯の拳が振り下ろされたのだ。

そのパンチがストレートとかじゃなくて伸ばした腕を思い切り振り下ろす鉄槌のようなものだったことと、助手席の頭の位置が低かったことと、運転手がなんの反応もしなかったことから、子供と母親なのかと思った。明らかに姑のパワーではなかった。

そんなことを考えている間にも鉄槌は運転手になんどもなんども振り下ろされる。信号待ちで止まった時には鉄槌のたびに車が大きく揺れるほどであった。

身体の中に太陽が滾るような昂りを覚えていた私は、どうしても二人の顔を見ずにはいられない。国道が二車線になったところで車線変更をしてちょっと飛ばして隣に張り付く。

助手席にはスポーツタイプのサングラスをかけた若いにいちゃんが思いっきり浅く腰掛けていた。運転席では淡いグリーンの作業着を着た五十代くらいの陽に焼けた皺くちゃの男が泣きそうな顔をしながらも打撃には無反応を貫いていた。

やっとクーラーが効きはじめた車内で、私の身体はどうしようもなく熱くなっていた。それは最近見たFXですってんてんになる動画の主のあの狂的な断末魔に抱いたのと同じ熱感だった。もうやめろもう見たくないと思いながらも目をそらすことができない。ヒッチコックの裏窓的な他人の本性を覗き見る行為に、私はある種の快感を覚えていたのだ。しかし私は窓を開ければ声の届く距離にいながら、見て見ぬ振りをすることしかできなかった。