意地を張る

2日か3日に1回、いつものコンビニにタバコを買いに行く。いつものコンビニというだけあって、店員はいつも同じやつだ。朝行っても昼行っても夜行っても平日でも休日でも90%くらいの確率でそいつがいる。やたら元気の良い、主張がましい挨拶をしてくる関取みたいなやつ。ロングピースと言って510円を置いた俺にそいつは「おひとつですか」と言いやがったから無視した。するとあからさまにため息をついてだるそうにタバコを持ってくる。俺は「今まで俺がタバコを2つ買ったことがあったのか?」と言いたい気持ちを抑えて無表情を貫く。俺はそこで「いつもの」すら言わなくてもタバコを買いに来たことがそいつにわかるくらいタバコしか買っていない。入り口からレジまで最短距離で歩いて来た俺なのだからそれはもう間違いない。それはやつも知っているはずだ。なぜならやつの機嫌のいい時や混んでいるときは言わなくてもささっとタバコを持ってくるからだ。それなのにやつは何回かに一回、必ず「おひとつですか?」と聞いてくるのだ。わざと聞いているのだ。多分やつは私に便宜を図ろうかどうかを迷っているのだ。おそらく何度か会話をやりとりしたり、ひとつしか買わないことを伝えたら、もう聞いてこないに違いない。それくらいの気は利かせられるやつであることは俺も知っている。しかし俺はいつも無視する。そこまでわかってしまったら、もうこちらからは何も言えない。ていうかずっと黙ってタバコを一個だけ買ってきたのに、今になっていきなり愛想よく声をかけるなんてどんな顔してすればいいのか。一個しか買わねーのわかってんだから黙って一個だけ持ってこいよ、となる。こうなったらこちらももう意地なのである。だから向こうも意地になって返事をさせようとするのだ。そしてお互いにちょっとだけイラっとする別れとなる。そんなやりとりが一週間に1回ある。こうして書いてみるととても下らない意地の張り合いだなのが、下らないからこそ、一度張ってしまった意地はなかなか撤回が難しい。昔うどん屋でバイトをしていたとき「天ザルウドンを下さい」という言う客に「ザル天ですね」と訂正を促し互いに譲らず押し問答になって、結局「ザル天いっちょーー!」と雄々しく注文を入れたのだが、後でこっそりメニューを見返すとしっかり天ザルうどんと書いてあり、ザル天だと思っていたのは私だけだった。そんな下らない意地ばかりの世の中なのである。