映画「凶悪」がとても面白かった

映画「凶悪」を見た。

救いがなく激烈に後味の悪い映画として知られる本作の感想としてはいかがなものかと思うけど、とても面白かった。素晴らしかった。

 

ジャーナリストの山田孝之は、ある死刑囚の告発をきっかけに猟奇的な連続殺人の影の首謀者を追いかけることになる。取材の過程で首謀者への憎しみに呑まれてしまい、要介護の母と介護に疲れきった妻(池脇千鶴)をないがしろにして取材に没頭してしまう。

そんな山田に池脇が言った

 

「あなたは(本当は)楽しんでいるんでしょ」

「(山田の告発記事を読んで)私も(楽しいと)そう思ったわ」

 

っていうセリフは、突飛な殺人事件を一種のエンタメとして消費する一般庶民に、そしてこの映画を観る人たちに向けての言葉でもあるわけで、また山田が勤める出版社の女性キャップも当初は「悪人が残虐な犯罪を犯す」のではありきたりすぎて購買には繋がらない、として取材の許可を降ろさなかったことも、映画を観ている私に言っているような気がした。そしてまさに映画に見入っている私はそれに何も反論できなくてなんとももどかしい。だがそれがいい

 

山田はまだすべての真相が暴かれていない陰惨な連続殺人を追いかけ、やがて一つの殺人現場である犯罪者たちのアジトだった小さな住居兼事務所を突き止める。埃でくすんだ窓ガラスを手で拭うと、その向こうに当時の残虐な犯行が流れ、過去の回想に移る。その演出がすごく良かった。まるで山田がそこにいてそれらをすべての見たかのような、そんな気になる。

 

しかし山田は事件の取材をする中で狂気に目覚めたのではなく、仕事に忙殺される日々、母親の介護、疲れきった妻、そんな生活の中ですでに狂気を宿していたのではないか。今回の取材は引き金を引いたに過ぎなかったのではないか。主人公の環境は現在の日本社会を象徴している。誰にでも起こりうることであり、多くの人が今まさに置かれている環境なのではないか。

 

そしてリリーフランキー演じる首謀者とピエール瀧演じる死刑囚(実行者)の凶悪性と垣間見える人間性、彼らに殺人を依頼する一家の救いの無さ、彼らに殺される人間たちの救いの無さ。もうすべてがビシビシ刺さる。

 

個人的にはもっと残酷な描写にして欲しかった。一応残忍で胸糞悪い描写で話題になった映画だが、実はけっこう自重したのではないかと思う。たとえば、ピエール瀧が裏切った(と思い込んでいる)舎弟をブッ込むシーンで、覚せい剤をブッ込んでレイプしてる最中に死んだ舎弟の女に「死んでんじゃねえよ」と何発かペチペチビンタをするシーンは顔面に鉄槌を落としたほうが良かった。あと保険金詐欺の委託殺人では瀕死のクズ爺さんをスタンガンで弄ぶという本映画一番の胸糞シーンがあるのだが、感電している演技がとても弱かった。感電すると体はピンと硬直して思うように動けなくなるので、間違っても時代劇の切られ役みたいに「うわー」なんて言いながら倒れるようなことにはならない。志村けんみたいな声をあげて顔を痙攣らせるようなもっと間抜けな感じになるか、一瞬で気絶して起こして気絶させてを繰り返すか、体が反射的に反応してスタンガンを跳ね飛ばしさらにリリーの怒りを買うみたいな感じの方がもっと胸糞悪くて良かった。まあこれはあくまでも私の好みです。

 

とにかく、とても良い映画でした。