後輩がついた悲しい嘘

昨日書いた友達から電話があったので驚いた。

高速を走行中にトラックがぶっ壊れてしまったらしく、それをいち早く私に伝えたかったらしい。騒がしいやつだ。いろいろダベる。つい最近、友人の前職の後輩が緊急逮捕されたらしい。なんでも出張先の東北の某県の早朝に警察が踏み込んできたのだという。踏み込んだのはその県でも会社がある九州の某県でもなく、これまた離れた中部地方の県警だった。

 

そいつはくだらない嘘をつく男だった。面接時、免許を持っていると言っていたのに、毎日免許を忘れてくる。友人もさすがに嘘だろうと思ったらしく「持ってないならそう言ってくれよ、俺だってこの仕事を始める時は持っていなかったんだから」と優しく迫っても、持っていると言って譲らなかった。それでも毎日持ってこないもんだから、いい加減ムカついて床に転がしたらようやく免許を持っていないことを白状した。免許を持っていないと就職できないと思ったのだそうだ。その後、教習所に通わせた。職場に行くまでのついでだからと、取引先の偉いさんが毎日教習所の前まで送ってくれることになった。男は試験に落ちた。いくらなんでもそんなはずはない、ということになっていろいろ調べた結果、教習所に一回も行っていないことが明らかになった。教習所の前で降ろされた後、男はいったいどこで何をしていたのだろうか。パチンコ屋に行っていたことは確認が取れている。

 

いるよねーそういう意味のわからない嘘をつくやつ、と思いながら聞いていた。しかしその嘘には切実な理由があった。男は他県で横領の罪を犯した後、地方を転々と逃げ回り、友人の働く職場にたどり着いたのだ。男は身分証明書や公的機関への個人情報の登録から足がつくことを恐れていた。嘘をつかざるを得なかったのだ。そして警察は気取られることなくずっとその足跡を追い続けていた。ようやくわかった嘘の意味に、私たちは推理小説を読み終えたような感慨を抱いた。

いつか飲み屋で「横領は男にとって最も恥ずかしい罪」と言っていた中年実業家を思い出す。その人は弟子に裏切られ横領の濡れ衣を着せられた。幸い疑いを晴らすことができたが、そのダメージは甚大だった。濡れ衣を着せた犯人は今でも某業界で大きな顔をしているが、周りはみんなそのことを知っている。

男が送っていた逃亡生活は不本意なものだったようだ。少なくとも金を持ってはいなかった。その横領は業務上の何かの穴埋めのようなものだったらしい。要領が悪かったのか脅されたのか騙されたのかはわからない。ただ、追われていることを知っており、逃げていたことだけは間違いない。テレビや新聞には、毎日毎日信じられないほど刹那的な理由で割りに合わない罪を犯す人が登場する。それは誰もがそうなりうることを示唆している。

広告を非表示にする