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病院の待ち時間が原始的すぎる件

やりきれない話

ジャケットのポケットに文庫本を放り込み、検査の出来る病院への紹介状を書いてもらうべく、私は病院へ行った。待つのが嫌だから開院前に受付を済まそうとしたのだが、既に老人でいっぱいだった。狭い待合席で肩をすくめてテレビを見ながら待っていたら、エグザイルの人たちも交通事故に遭ったと報じていた。紹介してもらう予定だった病院が今日は手術日だとのことで、別の、遠くの総合病院へ行くことになった。

 

改装したばかりの総合病院の駐車場が見えてくると、そのまま通り過ぎてしまいたいと思うくらい車が停まっていた。総合病院の受付は多重構造になっていて、まず来院の受付をして関所の中へ入り、改めて診療してもらう科の受付を済ませる。科の受付の看護師(ナース服を着ているのは全員女性だったので看護婦でなにも問題はないのだが)は、高い声で早口だった。アメリカのファーストフウド店員かと突っ込みたくなるくらいにフランクなタメ口の看護師にイラっとしながら、やっと、待合席に座ることが出来た。

 

生きていると、様々な場面で「待つ」時間を過ごすことになる。待ち時間自体、気分のいいものではないのだが、病院の待ち時間に感じるイライラだけは、いくつになっても許せない。もう二十一世紀だというのに、待ち時間に対するストレスケアの進歩のなさは一体なんだろう。何人並んでいるのかも判らず、ざっくりした待ち時間も判らないまま待たされ続ける人間がどれくらいイラつくものか、知らないわけではないだろうに。医療技術やら医療機器やら医療理論やらはどんどん先鋭化しているというのに、根本的な問題については、塩梅のいい仕組みひとつ構築できやしない。

 

隣の子どもはスマホを弄りながらラインの着信音をチャンチャン鳴らし、横の親は知らぬ顔でこれまたスマホに見入っている。後ろでは痴呆の婆さんを連れたオバちゃんがなんども同じ事を大声で説明してる。こんな地獄が延々ループするのが、病院の待ち時間なのである。私は病院へ行くときは必ず文庫本を持って行くのだが、はっきり言って読めた試しがない。一応ペラペラめくってはみるものの、そんな環境の中で本が読めるほど私は鈍感ではない。今日も結局居眠りしてやり過ごすことになった。それでも病院へ文庫本を持ち込み、読めないのが分かっていてページを手繰るのは、本を読みたいからではなく、「読みたい本を読みながら、穏やかな気持ちで待ち時間を過ごしたい」という、病院への私なりの精一杯の声なき抗議なのである。

 

いつ呼び出されてもいいように気を張りながら寝ていたら、いつの間にか二時間が経っていた。あたりを見回すと、たくさんいた待ち人たちの面々は様変わりしていた。そして私の知らない人の名前が呼ばれていた。もはや限界と、フランクなねーちゃんにどうなっとるんやと聞いてみると、あとさらに五人後が私の番だと言う。初診の飛び込みは後回しになることがあるんだと。いい加減ムカついたが、こればっかりはゴネても仕方がない。病院の職員が忙しいことも重々承知している。それでもやっぱり納得がいかない。

 

そんな私の苦虫を噛み潰したような顔を見た看護師は、具合が悪いからイライラするのだと言いやがり、横になって待っていてくださいと診療室の隣の部屋へ案内した。周囲の目が私にブスブス刺さるのを肌で感じながらも、もう言われるままに案内されるしかなかった。横になって待っていると、また別の看護師がやって来て「あなたは次の番みたいですからね、このまま横になってればすぐに先生来ますから」などと言いやがる。ついさっきあと五人待ちだと言われたばかりなのに。見え透いた嘘を吐きやがって。これではまるで私がゴネにゴネたみたいではないか。逆に情けなくなってくる。そうではない。けしてそうではないのだと伝えようとするも、看護師は私の話を聞こうともせず、私の言葉の上から心無い言葉をかぶせ続ける。五人分の診療時間くらい横になっていると、ドアの向こうから私の名前を大声で呼ぶ声が聞こえた。あわてて起きて出て行った。そんな私は、他の患者から見ればクレームをつけるめんどくさい患者にしか見えなかっただろう。既に来院から三時間が経とうとしていた。

 

でまあ、

それからあっちこっちたらい回しにされ、虫の息で病院を後にする。四時間半。滞在時間は四時間半だ。内、待ち時間は四時間十五分。よじかんじゅうごふん。わかってくれとはいわないがそんなにおれがわるいのか。車で駐車場を出るとき、患者は駐車料金が無料になるのだが、受付で手続きをしなかったため、料金を請求されてしまい、無人支払機の前でアタフタしているうちに大行列ができてしまったので仕方なく払い、また引き返してバーをくぐり、受付で返金の手続きをしてもらった。だから病院は嫌いなんだ。この年の瀬に事故に遭ったエグザイルの面々もこんなイライラする思いをしてるのかと思うと彼らに親近感を抱いたが、よく考えたらそんなわけないよね。