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旅先にて

旅行をしている。旅先の漫画喫茶でこれを書いている。暇なのだ。特に目当てはなく、街をぶらぶらして、腹が減ったらメシを食う、それだけなので無理もない。こっちはとにかく人が多い。特に外国人、おのぼりさん的な中国人とか韓国人とかが多い。ベイシングエイプを着た中国人、実に似合っている。夕方、バスに乗ろうとしたら、アホみたいな行列ができていたので仕方なく並んでいた。目当てのバスが来て列が前に進んでいく。降りて来た老人が私に声をかけて来て、一日乗車券をくれた。ラッキーと思いながらバスに乗ろうとすると、突然おばはん二人が割り込んで来た。「ちゃんと並んでくださいよー」と警備員が制止するも「あら私たち並んでたのよ!」と明らかな嘘を主張をしながら、ずけずけとバスに乗り込んだ。ちょうど俺の前に。俺はムカついたが、アホの相手をするのは損するだけだからほっといた。俺だけでなく、誰も何も言わなかった。割り込んだババアも、乗車券をくれた老人も、キャリーバッグで道を塞ぐやつらもみんな日本人だった。それはそれとして、旅館をとっていたわけではなく、夜はそのへんの雀荘で朝まで時間を潰そうとほんのり考えていた(雀荘の深夜営業は禁止されている)のだが、十二時前のオーラスが終わると、とつぜん営業終了が宣言された。平日は深夜営業をしていないとのことだった。これは困った予定が違う近くに漫画喫茶はないかとブツブツ言っていたら、同卓していた人が、近くにあるよと声をかけて来た。深夜営業をしている近くの雀荘も知っているという。しかも優しいことに、そこまで案内してくれるというではないか。というか、何も言ってないのに、エレベーターの前で待っていてくれた。道中で話していると、彼も地元の人間ではないらしく、ここは一番近い栄えている県だということだった。アイドルのライブや握手会目当てで全国を旅行することがしばしばあるらしい。ここで俺は無意識にこの紳士を「アイドルオタク」とカテゴライズしたのだが、よくよく考えてみると、「アイドル好き」と「アイドルオタク」の線引きがよくわからない。地方ライブに行けばオタクなのか、握手会に行けばオタクなのか。よくわからないがとてもいい人だった。で、その人は終電に乗って繁華街に一人繰り出すとのことで、雀荘と満喫を案内してくれた後に改札で別れたのだが、つい5、6年前だったら間違いなく「じゃあ俺もそこに連れてってくださいよ^_^」と言っていただろう。しかし、実際の俺は、その言葉を飲み込んでいた。言えば連れてってくれたに違いないのに。年をとって、そういう相手に甘える一言が言えなくなってしまったと感じることが多くなった。見栄半分、めんどくささ半分といったところだろうか。ああついて行けばよかった、とまで後悔はしていないが、こういう突発的な展開を自ら遠ざけるようになってしまったことは、あまりいいことではないと思った。結局、その日の深夜の漫画喫茶は満員で入れず、深夜の冷たい駅前をうろつき、チェーンの居酒屋で一杯やって、教えてくれた雀荘を訪ねて夜を明かした。で、朝を過ごし昼を過ごしうまいメシを食ってようやく漫画喫茶の個室を確保して少し眠って今に至るのだが、それにしても、飯屋でメシの写真を撮る奴の気がしれない。ああいうことが俺にはできない。それがどんだけうまいメシでも、見た目が美しい料理でも、食う前にわざわざ写真を撮って残そうとするその卑しさが俺は気に食わない。旅行中、ふしぶしで名所をバックに写真を撮っている人たちを見かけたが、正直あれもあまり好きではない。ああいう人たちは、ああいう写真を後で見返したりするのだろうか。俺は写真を撮って後で見返してわいわい振り返るといった習慣がないから、ああいう人たちのことがよくわからない。写真はできるだけ撮りたくない。名所に行ったなら、できるだけ網膜と記憶に残したいと思う。写真を撮るという行為は、それとは相反したことだと思うし、百歩譲って写真を撮るにしても、自分をフレームに入れることは絶対にしたくない。まず美観が損なわれる。それに、そこの写真を撮ったということは、その写真を撮ったのは確実に自分に違いないのだから、そこに自分をフレームインさせることは、非常に言い訳がましく見苦しい。自分がフレームインしていないと自分が撮ったものだと思われないとでも思うのだろうか。そう思われたからいったいなんだというのか。ベタなアリバイ工作じゃねんだから。まあ人は人だから別にどうということもないが、とりあえず邪魔だ。歩いているだけでフレームインしてしまう時のほんの少しの申し訳なさのあの気苦労が嫌いなんだ。

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