刺されたのか噛まれたのか

ちょうど寝付いたころに、なんとも言えない違和感を右腰のあたりに感じて、手でまさぐりながら目を開くと、指は虫の背を撫でていた。昨日、不気味な羽音をさせて闖入してきた蜂みたいな虫だった。うわあ、なんて大声を上げて反射的に弾き飛ばした。驚いたことなどいつ以来だろうと思うかたわら、うわっ、でもうわー、でもなくうわあ、という、あ、まできっちり発音した驚きの声を上げてしまったことを一人恥ずかしむ。今まで「うわあ」なんて声を上げたことはなかったが、それは本当に驚いたことがなかったからだと思い知った。それにしても痛みが尋常はない。灼けたような痛みの中心に、刺されたような痛みが脈打つたびに襲ってくる。患部を見るのが怖かった。名前も知らないよくわからない虫に刺されて、これまでにない痛みのパターンを味わっているだけでも十分すぎるほど恐ろしいのに、これで患部が真っ青に腫れていたりしたら、寝起きのわたしにはもう耐えられない。とにかく怖かったから、もう一度眠ろうと布団をかぶったが、虫の行方がどうしても気になる。机の下あたりに弾き飛ばしたが、手には虫の体液などがついていない。虫の羽音もない。軽く失神しているのかもしれない。殺るなら今しかないと思い立ち、体を起こして机に向かう。椅子の背もたれに右手をかけて椅子を少し退かしながら、机の下を覗き込んだが、虫はいなかった。おかしいなーなんて思いながら、あれ?椅子に手をかけたときミシッって音しなかった?と思った瞬間に血の気が引いて、右手が背もたれでないものに触れていることをはっきり感覚した。反射的に手を無茶苦茶に振ると、不気味な羽音を鳴らしながら虫が飛んできて、またうわあと叫んで情けなく尻もちをついた。得体の知れない虫は、窓枠の上に留まった。わたしは我を失ってしまい、ただちに叩き潰してやろうと立ち上がっていたが、適当な武器が見つからず、かといって目を離して見失うわけにもいかず、肩にかけていたバスタオルで戦うことにした。そっと近づいて、思いっきり虫をひっぱたいた。我ながら絶妙の距離感で、虫だけをタオルで捉え、そのまま窓の下にある小さな棚に叩きつけた。注意深くタオルをめくって確認すると、タオルにひっついた虫はまだ生きていた。そのまま近くにあったゴザを急いで丸めて何度も叩く。手応えあり。しかし虫は消えていた。壁と棚の間に落ち込んでしまったのだ。棚を退かして見るとまだ動いていやがったので、そのへんにあった墓磨き用の霧吹き式の洗剤をひっつかんで百シュッシュくらいしているうちに虫は痙攣しだしてそのままお陀仏。どんな虫なのか見ると、蜂でもアブでもなく、やはり得体の知れない虫だった。一見、蜂のようだが、良く見かける蜂とは黄色の分量が違う。尻にある縞模様が二本しかなく、細い。顔も黒く、人間でいう鼻の部分だけが黄色い。黄色みも若干弱い。

ググってみると、どうやらドロバチ科っぽい。特徴的にオオフタオビドロバチで間違いなさそうだ。

 ハチの仲間1

 オオフタオビドロバチの狩り ( 写真 ) - 自然観察日記 - Yahoo!ブログ

 蜂かよ!

いわゆる蜂のような巣ではなく、竹の中や木材の中に巣を作る珍しい蜂のようだ。ってえことは、家の木材の中に巣を作っている可能性もあるわけで。怖いんですけど、、、。

そんなこんなで痛みも引いてきたので、勇気を出して傷を見ると、患部の周りは蚊に刺されたように腫れていて、中心にコンセントの差し込み口のような二本線の小さな赤い傷があった。刺されたのではなく、噛まれているようにしか見えなかった。そのときは蜂ではなく得体の知れない虫だと思っていたので、いっそう恐ろしくなったが

 Σ こんちゅーぶ!: オオフタオビドロバチ♂尾端に生えた謎の刺状突起

 これを見ると、オオフタオビドロバチの尻には二本の棘があるようだ。おそらくこれが刺さったのではないか。オオフタオビドロバチはあまり攻撃的ではないようだが、寝ているわたしに潰されそうになった拍子に、尻の棘でわたしを刺したのかもしれない。痛みが引いた後もしばらくの間、若干の悪寒と酔いがあったので、それなりに毒は持っているのだろう。死んだ後も、複眼だけは生きているみたいに蛍光灯の光を反射していた。

 

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