ポスト

昨日、家の近くにあるポストが埋め変えられていた。従来のポストよりも赤みが強く、ひと回り以上小さいものだった。容量は半分もないだろう。どうしてこんなことをしたのかが、わたしにはよくわからない。製造費用も設置費用もバカにできないほどの金額だろうに。なんとなく「あなたたちが使ってくれないから、こんなに小さくなったんですよ」と言われているような気がした。

 

引越し先でほんのちょっとめんどうなことのひとつに、ポスト探し、があった。思えばポストを使う機会は、履歴書を出すときくらいだった。他にもなにかで使ったような記憶があるが、どちらにせよ、あまりあることではなかった。そんなときに、近くにポストが見つからないということがよくあった。たいていの場合、郵便局の場所は分かっていた(郵便局の前にはポストが設置されている)ので、そこに行って投函することが常だったが、後になって「こんなところにポストがあるのかよ」ということは、どこの引越し先でも経験した。しかし、そのポストを使った記憶はない。その場所も、思い出せない。郵便局がある場所は比較的開けているので、買い物のついでに投函できる。そういった理由もあって、路傍のポストには目もくれないでいたのだが、とうとう痩せ細ってしまったというわけだ。他のポストも変わってしまったのだろうかと、車に乗った折に探してはみるのだが、これが全く見つからない。今日、別の町でようやく見つけたポストは、やはり小さくなっていた。

 

そういえば、これまでに二回、怪文書をもらった経験がある。どちらも郵便局を介さないで郵便受けに投函されたものだった。や、一回は投函すらされず、ドアにガムテープで貼られていた。それは住民票の写しで、下の空欄にカネを払えという旨の言葉が書かれていた。当時のわたしは学生で、なんの覚えもなかった。住民票の名前は、わたしではなかった。数日後の夜、小さなノックが二回あり、その音には凄みがあり、一発でそれとわかった。ゆっくりとドアを開けると、見るからにそれとわかる強面のオヤジが立っていた。半歩後ろで茶髪の若造がくねくねしていた。もういちど住民票の写しを見せられ、この人を知らないか、と穏やかに尋ねられた。知らない、と答えたわたしは、恐ろしさから、そういえば二軒隣の部屋の人は年が同じくらいですよ。と言ってしまった。ありがとう。と言い、その部屋に向かう二人をドアの隙間から覗く。するとオヤジはいきなりドアを蹴りつけ「おらあ開けろ」とどなりだした。わたしはドアを閉め、布団にくるまってうずくまり、ごめんなさいを何回も唱えた。数分すると怒号は収まった。どうやら不在だったようだ。全てが終わった後、三軒のタコ部屋が並ぶその上に一軒家を建てている大家が「何かあったのか」と尋ねてきた。わたしは大家を改めて軽蔑した。大家が知らなかったはずはなかった。三部屋の賃貸物件は、大家の一軒家の下にあり、隣の壁は無きに等しく、また、大家の家との間の防音設備も無きに等しいものだった。隣の部屋の住人がアコギでビートルズを歌っているのが、まるで隣にいるかのようにはっきりと聞こえていた。わたしの部屋はおそらく大家の寝室の真下だったのだが、毎日いびきがうるさくて眠れないほどだった。あれほどでかいいびきはこれまでに聞いたことがない。そんな大家は、わたしが部屋を借りる際の条件として、客を招かないこと、を強要した。わたしも上京して半年も経っていなかったが、引越しをせざるをえない状況であったため、二つ返事でそれを受け入れていた。もちろん、引越したその日に友達を呼んだ。友達が部屋に入り、「へー」と言ったか言わないかという刹那に、大家は現れた。以来、部屋に人を呼ぶ時は、耳打ちするくらいの音量で話すことを余儀なくされた。彼女を家に連れ込んで事をいたしていた時も、互いにできる限り声を潜めていたはずなのに、すぐに降りてきた。彼女を押し入れに隠し、「AVみてただけですけど(なにか?)」とやや声を荒げ、着の身着のまま汗だくで追い返した。部屋にクーラーはなく扇風機もない。テレビの電波もきていなかった。その後、部屋を選ぶ時は、防音がしっかりしているかどうかをなによりも優先するようになった。住む部屋で人生は大きく変わる。

 

 

広告を非表示にする