リボンのマグネット

車に乗る人ならわかると思うが、片側一車線の国道を時速50キロで走ると、後ろがつっかえる。時速40キロで走ると、ちょっとした渋滞になる。だからといって、制限速度の設定がおかしいとは思わないが、イラッとすることはままある。

生ぬるい車中での信号待ち。ふと横を見やると、国道沿いに建つ昭和風の平屋の窓に、くすんだマルボロのステッカーが貼ってあった。ああ、この家には80年から90年くらいに不良だった息子がいるのだなあ、F-1のステッカーも貼ってあれば完璧なのになあ、と味わう。

そんなくだらないことを思っていたら、またしても雑念が湧いた。いっときは、行き交う車全てが貼っていたんじゃないかと思うくらい見かけたアレを見かけることが少なくなったことだ。

【リボンステッカー】ミニサイズ SC-DSDS 交通安全を願って

あとで調べてわかったのだが、コレはリボンマグネットというらしい。何年も前から、車から見えるこの形だけが記憶に残っていたが、そんな名前があったとは初めて知った。

おかげで、運転している友達にどう表現すればいいのか悩んだ。「車に貼ってるリボンみたいなやつ」とか「ほら、あの車に貼ってあるやつ」なんて言えばわかってもらえるし実際そうなったのだが、自分の頭の中でくっきりと形が現れているものをはっきりと説明できないことがとても歯がゆかった。「リボンマグネット」と言っても通じなかっただろうが、なんとなくは伝わるだろうし、名前とはそういうものなのかもしれないが、わたしはそれでは満足できない。はっきりとではなくても形やニュアンスを想像できて共有できる簡潔な表現がしたい。ちょっとした快感を味わえるからだ。

とにかく、アレがなんであるのかはわかってもらえたのだが、次は疑問符が湧いた。アレはなんのために貼ってあるのか。思えば、そのことについてあまり関心がなかった。エイズだかなんだかの団体に寄付をしたらもらえるもの、ぼんやりとそう思っていた。そんなことを話すと「え?そうなの?」などと聞き返されてしまったので、いよいよ自信が持てなくなった。「や、断言はできないんだけどね」と茶を濁し、どういう認識なのかを問うた。「俺は〇〇で車検をした車に貼られるものだって聞いたことがあるけど」むこうもやはり自信なさげ。わたしは、はっとした。友達は、自分にはたどり着けない、想像もできなかった認識を持っていたからだ。これならわたしが知らなかったことも、貼る機会がなかったこともうなづけるし、たくさんの人が貼っていることも理解できる。わたしの認識は「リボンマグネットを運営する団体のこと」についてのごく一部のことだった。友達はリボンマグネットがなんなのか全く知りもしなかったわけだが、認識としては「なぜたくさんの車にアレが貼られていたのか」「そして今、貼られている車が少ないのか」の答えとして、わたしが知りたかったことについて、わたしには追いつけないほど近い距離にいた。次元が違っていた。もちろん、その認識の真偽についてはまた別の話なのだが。

不意にわたしを尖った音が貫いて、背筋が伸びる。ひとつ後ろを走るジジイが、ひとつ前を走るババアにむけてクラクションを飛ばしたのだ。しかしババア我関せず。や、むしろスピードを落としたのではないか。

 

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