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喉まで出かかった記憶に自信が持てない

くだらない話
国道沿いにアダルトショップがある。軒先に看板というかアダルト女優の等身大パネルがばちょーんと置いてあって、いついつにサイン会があります、的な宣伝が書いてある。こんな田舎まで営業にくるなんて大変だなあと思ったが、この仕事のためだけにわざわざこんなところまでくるのはさすがに効率が悪すぎる。何かのついでなのか、ついでに何かをするのか。いや、プロレスラーのように地方を巡業するのは、このような職業の人にとってごく一般的な活動なのかもしれない。なににせよ、なにかしらお金の絡んだネットワークがあるに違いない。コインを集めながらゴールに向かうような。しばしば、そんなことを考えながら通り過ぎる。ふと、ひとり女性の顔が浮かんだ。わたしが高校生のころに、その女性がこの系列の他店にサイン会できたことがあって、わたしの友達がサインをもらいに行った、という話を思い出したからだ。浮かんだと言っても、すりガラス越しのような、ヒントでピントの16分割クイズのような、日焼けした肌、茶色のショートカット、ややつり目、心もとない。1990年代に活躍したグラビアアイドルであることは間違いないのだが、名前が出てこない。そのころはバブルがパンパンに膨らんでいた時代で、グラビアアイドルは、夏場の夜の街頭に集まる虫のごとく、とめどなくいた。今ではグラビアアイドルなんて、いるにはいるが、あまり聞かない。グラビアアイドルの人数が減ったような気がするが、アイドル自体の数は、むしろ増えたように思う。昔働いていた現場系の職場にいた唯一の事務員が地下アイドルをやっていたことを知った時は、さすがにたまげた。同時期に入った若手が声優志望だったことも、時代の変化を感じさせた。どうしても名前が出ない時、ひっかかったまま放っておくことも多いのだが、比較的情報量が多いこともあって、このまま放っておくのが嫌だった。最近、思い出せなくて腹立たしい思いをした男性アイドルグループのこともあった。そのアイドルグループのことで確かな記憶は、ある曲の歌詞の「ちょーヤバイ」だけなのだが、耳で聞いただけなので、それが「ちょーヤバイ」なのかどうかは断言できない。ここまでくると、もはや覚えているのかどうかすら疑わしい。潜在意識に働きかけるような、とりとめのないスピリチュアルな奇跡を待つようなものだった。そんなことはともかく、この時のように、wikipediaで年代別のグラビアアイドル一覧の名前をひとつひとつ凝視しながら、記憶の発奮を待つ。70年から80年代生まれであることは明らかで、けっこう有名どころのはずだから、すぐにたどり着けるだろうと思っていた。しかし、何周してもピンとこない。もしかしたら、ここにはいないのかもしれない。そんな懸念が頭をよぎる。芸能人だって人間だもの、忘れられる権利だってあるよね。忘れたい過去なのかもしれない。もしそうだったら、ネットの情報なんか一生つきまとってくるわけでしょ。発狂するよね。仮に載ってなかったとして、いったい誰に文句が言えようか。せいぜいわたしが悶絶するだけなのである。それにしても、あ〜いたな〜って人もいれば、この人もグラビアアイドルだったの?って人もいたり、いろいろあるんだなあ、なんてしみじみ。もしかしたら、ほんとうにこの中に名前がない人はいるのかもしれない。だとしたら、たぶん売れなかった人だろう。忘れられたくないのに、忘れられた人、そんな人なんだろうなあなんてぶつぶつ考えてたら、ふっとよみがえる記憶。花びら舞い散る。記憶舞い戻る。松田純だった。所要時間30分。画面とにらめっこしてやっと思い出した名前。目を皿にして何周もしていたのに、見落としていた松田純。記憶の顔と名前が完全に一致して、とてもすっきり。頑張った甲斐があった。で、答え合わせ的にgoogleで画像検索してみたのだが、そこにでてきた顔が思っていたのと全然違っていた。コレほんとに松田純なの?ってくらい違っていた。確信に変わったばかりの自信が、確信の核心から揺らいだ。求めていた答えは松田純で間違いないのに、リアルな松田純は俺の中の松田純でなかった。こんなおぼつかない自信で、アダルトショップでサイン会をしたグラビアアイドルとして記憶舞い戻らせていいのだろうか。世界の片隅でこんな思い出し方をされて、しかも確信が持てないでいるなんて、いくらなんでも失礼すぎやしないだろうか。このことを確認するためには、実際にその話をした友達に聞くしかないわけで。「ううん、なんでもない」なんてはぐらかされた経験は誰にでもあるだろうが、深刻だから言えないのか、こんな感じでくだらなすぎるから言えないのか、おそらく後者の方が多いのだろう。こんなどうでもいいこと、どのツラ下げて聞けばいいのか。「覚えてない」なんて言われたら、目も当てられない。下げるツラはないが、電話で済ませる案件ではない。などと逡巡しながら松田純wikipediaみてたら、結婚してニューカレドニアに住んでて日本語教えてるらしくてなんかもうほんとすいませんでした。