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図書館の本をもらってきた

いつか図書館に行ったとき、隣接しているコミュニティスペースで、古くなったり破損した図書館の本を処分するちいさな催しが開かれていた。ガラスの引き戸を開けて中に入ると、そこは校外の参加者を禁じた文化祭の一室のようだった。高齢者や主婦と思しき人たちが、ぽつぽつと黙々と長机に並べられた本やダンボールに詰め込まれた本を物色していた。わたしは、星新一のハードカバーの短編集とミステリー傑作選を頂戴した。家に帰って読んでみると、星新一の短編集は、小学校の教科書のように大きな文字で読みやすそうなものだったが「これからの出来事」の短編のところだけ、途中から下の空白部分がボロボロに破かれていた。

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気がつくと、子供がやったことなんだろうなあ、親は叱っただろうなあ、これを図書館に持って行くとき、どんな顔だっただろうなあ、と牧歌的な気分で妄想に耽っていた。「これからの出来事」という短編の挿絵付近だけが破られていたことも味わい深い。この短編集の題名も、この短編からとっている。

裏表紙をめくると、
この本は、株式会社新潮社のご好意により、新潮文庫「これからの出来事」を底本といたしました。
と書かれており、底本の意味がわからなかったので調べると、写本ということであった。この本を出版する埼玉福祉会は、著作権をもつ新潮社にお願いをして、同じ内容の本を大文字して出版したのだ。

大活字本シリーズ発刊の趣意として、
略)埼玉福祉会は、老人や弱視者に少しでも読みやすい大活字本を提供することを念願とし、身体障害者の働く工場を母胎として、製作し発行することに踏み切りました。何卒、強力なご支援をいただき、図書館・盲学校・弱視学級のある学校・福祉センター・老人ホーム・病院等々に広く普及し、多くの人利用されることを切望してなりません。
とある。

なるほど、これは一般的な市場には流通していない本なのだ。価格は3,500円である。高い。高いが、それも仕方がないのだろう。むしろ3,500円も取らないと営みを維持できないのかと思うと悲しみすら覚える。

埼玉福祉会とはどのような団体なのかと思い、調べてみたのだがipadでは文字化けしてしまうー。まあ、いろいろと図書関係に特化した活動をしているようだ。Amazonで「埼玉福祉会 大活字本」で検索すると、たくさん本を出版しているようですね。

わたしが行った図書館に置いてあった本は、おそらく埼玉福祉社から購入したのだろう。そう思って表紙を眺めると、なぜわたしの手元にあるのか、縁とは不思議なものだ。まあ、まだ読んでないんだけど。

それはそれとして、コミュニティスペースで手に取ったときから、本の表紙から漂うある種の寂しさ感じていた。うまく言葉にできないが、公共施設のような冷たい現実的な無機質さのような感じだろうか。これも手に取る人に気を配ってデザインされたのだろうと考えると、いろいろとモヤモヤする。

同じ内容でもデザインや挿絵ひとつでその本の印象って大きく変わるんだなと、改めて思う。同じ内容なのにね。

余談だが、わたしが昔、校正のバイトをしていたある学習系出版社は、足が不自由な人を雇っていた。不自由と言っても歩けるのだが、びょこびょこと不恰好な歩きになってしまう。その人は、書類を届けるお使いのような仕事を任されていて、毎日毎日出社してはすぐにびょこびょこと歩いてお使いに出掛けていた。リハビリと言っていいのかわからないが、そういうのも兼ねているのだろう。とても明るい人だった。その古臭い社屋も、どこか物悲しい雰囲気が漂っていた。


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