鬱病に効果があるというアヤワスカの思い出

 

アヤワスカをご存知だろうか。


アヤワスカは、ペルー、ボリビアなどの先住民族の言語であるケチュア語で、「魂のつる」、「死者のロープ」という意味をもつ。「アヤ」は、魂、精霊、先祖、死者などを指し、「ワスカ」は、つる植物全般やロープを意味する。アヤワスカという呼び方は主にペルーとエクアドルで使われている。ブラジルでは、カーピ、シポ、オアスカ、ダイミなどと呼ばれ、コロンビアではヤヘイ(Yagé)と呼ばれる。ヤヘイの名称は、ビート・ジェネレーション作家のウィリアム・バロウズと詩人アレン・ギンズバーグによる『麻薬書簡』(The Yage Letters) により一般に普及した。
部族の中のシャーマンという神聖なる存在が、神託を得るために使用する植物だ。要するに、あちら側の世界への架け橋となる精神変容薬である。
 
アマゾン川上流域でアヤワスカを使用する先住民族のシャーマンの能力は、善良なことにも邪悪なことにも使われる。アヤワスカの精霊から歌を授けられ、その歌を使いわけることにより、アヤワスカ茶は病気を治す薬となったり、敵を攻撃する毒となったりする。敵や呪術師による攻撃を受けたために病気にかかると信じられており、治療師は息を吹きかけたり、口で吸い上げたりして病気を治す。シャーマンが歌う歌や口笛は、病気の治療と呪いをかけることのいずれにも使われる。シャーマンはアヤワスカを飲むことにより体内に粘液を生成し、これを呪術的な攻撃からの防御や武器として使うと言われている。
なにやら怪しい。こんな前時代的な眉唾な行いが今も存在するのだろうか。
 

2000年代では日本でもアヤワスカを買うことができた

 
実は、日本でもアヤワスカを買うことができた。ある人気俳優がキノコを食べて巨大化し警察沙汰になった頃は、アヤワスカはまだ規制されていなかった。その頃東京に住んでいた私は、あるサイケデリックな雑貨屋で、一つだけ売られているアヤワスカのパケを見つけた。それは小指ほどの大きさの木の枝のようなものだった。五千円だった。それが精神変容を起こす作用があることは直感でわかったが、なんの説明書きもない。好奇心をくすぐられた私だったが、当時の私に五千円はあまりに高かった。気になって何度も店を訪れるが、アヤワスカがいつも売れ残っているのを指をくわえて見ていた。ある日、とうとう我慢できなくなって買った。
 
買って帰ってすぐに試すのは、愚か者のすること。まずはアヤワスカについて知らなければならない。当時のwikipediaにここまでの情報はなかったはずだ。若しくはwikipedia自体がなかった頃かもしれない。
 
まずはすでに持っていた「危ない薬」を読み返す。

 

危ない薬

危ない薬

 

 

 

この本は、砂糖、コーヒーからヘロインまで様々な薬物について解説してある本だ。しかしこの本にアヤワスカについては書かれていなかった。私は本屋を巡ることになった。

 

アヤワスカ!―地上最強のドラッグを求めて

アヤワスカ!―地上最強のドラッグを求めて

 

 



 

心と体の準備はできているか

 
そこで見つけたのがこの本だった。アヤワスカの体験記。アヤワスカについて詳しく書かれてある本は、他に見つけることができなかった。この本を読んだ今、これ以上にアヤワスカについて書かれている本は無いと断言できる。筆者のアヤワスカへの思いと神秘的な体験の細かい描写に、わたしの胸は激しく躍った。私もこのような体験ができるのだと。
 
しかし、そのためにはとてつもない準備が必要だった。
 
酒はもちろん、砂糖から醤油から刺激物と呼べるもののいっさいがっさいを絶って、体の毒素を抜かなければならないのだ!
 
その期間は短くてもおよそ10日ほど。その制約は、とても厳しいものだった。もう絶食するくらいの勢いが必要なのだが、飽食の現代で普通に日常生活をしていると、それは不可能といっていいものだった。
 
なぜそんなことをするのか?強引に簡単に言ってしまえば食べ合わせの問題だ。私たちが普通に食べている食材でも、食べ合わせが悪いと体を壊す。私たちが日々摂取している食べ物や調味料には、少なからず精神に変容を及ぼす物質が含まれている。糖分を摂ることでセロトニンが分泌されたり、カフェインに鎮静作用があったり、あらゆる食べ物には、少なからず精神の変容を促す物質が含まれている。それらの作用が、アヤワスカと反応してしまうことを避けるために、体の中の不純物をできるだけ排出しておく必要があるのだ。それは、アヤワスカが強力な精神の変容をもたらすことを意味する。
 
私は完全にビビってしまった。普通に社会生活をしている私は、これをやってはいけないのだと悟った。これをやるには、今の生活を大きく変えなければならない。それで手に入るのは、無事に帰ってこられるかすらわからない精神の旅。いや、帰ってこれる自信が持てなかった。スイの甘いも、たいていのことは経験し、ちょっとやそっとのことでは動じることなどないと自負していた私だが、気がつくとアヤワスカの幻影に完全に呑まれてしまっていた。
 
それでもいつかの日を夢みて、お守りのように大事にしまっておいたのだが、いつしか私の手元からアヤワスカはなくなっていた。覚悟を決められなかった私には、持っている資格がなかったのだろう。
 
 
そんなアヤワスカは、鬱病に効果があるらしい。これは知らなかった。信ずるに足るかどうかは置いといて、こうした活動は実際にあるようだ。アヤワスカツーリズムなるものも存在する。荒療治な気もするが、鬱病が心の病であるのなら、精神を変容させることは根本的な療法とも言える。しかし、精神にもたらす作用は、日本で処方されている抗鬱剤のそれとは比較にならないだろう。
アヤワスカにより喚起される変性意識状態は、一時的な自我の崩壊を起こし無意識と向き合うことで大きなセラピー効果をもたらすとされる。
1993年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のチャールズ・グロブ医学博士、薬理学者のJ.C.キャラウェイ、デニス・マッケナらが、ブラジルのウニオン・ド・ヴェジタル信者15名を対象に精神鑑定を行った。被験者は10年以上団体に所属し、定期的にアヤワスカを飲用していた。鑑定の結果、彼らは極めて健康であり、過去に患っていたアルコールなどの依存症、うつ病、不安障害からの改善を示した。神経症や精神病の傾向は皆無だった。また、血液検査では、気分を調整する神経伝達物質であるセロトニンの再取り込み部位の増加を確認し、抗うつ薬と同様の効果が得られることを示唆している。
ペルーのタキワシ治療施設では、アヤワスカを使用し、アルコールや薬物(主にコカイン、ヘロイン)依存症の治療に取り組んでいる。国境なき医師団の仕事のためにペルーを訪れたフランス人医師が開設した。
対照実験ではないが、6名でのアヤワスカうつ病に対する効果に関する研究では、ハミルトンうつ病評価尺度にて、摂取の翌日でスコアは平均62%減少し、21目では82%減少していた。
アヤワスカ茶に含まれる成分であるDMT(ジメチルトリプタミン)は、国際的にスケジュールI薬物に指定され、あらゆる所持、使用が禁止されている。日本においても、麻薬及び向精神薬取締法において規制されている。
2006年、アメリカ合衆国最高裁判所は、ブラジルの宗教団体ウニオン・ド・ヴェジタルのアメリカ支部に対し、宗教的自由回復法に基づいて宗教儀式におけるアヤワスカ茶の使用を認める判決を下した。
ブラジルでは、1980年代半ばに宗教上の使用が合法化されている。
 
 

ダメ!ぜったい!

 
なんにせよ、日本では法によりドラッグに認定されている
今では手に入れることはおろか、それを拝むことすらできないだろう。
 
しかし海外には体験できるところがあるようだ。もちろん、上に書いたようにしかるべき準備をしなければ、それはただの悪夢となるだろう。悪夢で終わればまだマシな方かもしれない。こういう準備は、酒を飲むときも同じだ。心身が不健康な状態で飲む酒は、悪酔いしてしまうものだ。
 
いくつか体験記もある。興味がある人は、読んでみると良いだろう。
どれも興味本位のドラッグ体験の域を出ないものではあるが、参考にはなるはずだ。