懐かしの名ドラマ【略奪愛・アブない女】

 
 
テレビは世相を反映する。
ストーカーという言葉が浸透したのは、ちょうどこのドラマが放映されていた頃、つまり1990年代の終わり頃だ。このころ、ストーカーを冠したドラマがいくつも作られた。その中でも本作は、一等面白いツッコミどころの満載のギャグドラマなのである。仕上がり具合がハンパないのである。
 
一体なぜなのか。
 
 

美味しい大根の話

主要キャスト
野岳史 - 赤井英和
精神科医。良き夫、良き父だが義妹、鈴に付きまとわれた上、関係を持ってしまい苦悩。
浅野樹子 - 稲森いずみ
岳史の妻で鈴の姉。元ナースで、岳史とは職場結婚だった。夫を愛し、陰で支えているが、のちに鈴に殺されかかる。鈴同様に両親の離婚がトラウマになっているのでは?と懸念した事もある。
浅野花 - 林エリカ
岳史と樹子の娘。4歳。
岡哲也 - 袴田吉彦
岳史の部下。後に鈴に惹かれ、心の治療に協力を申し出る。
杉田鈴 - 鈴木紗理奈
樹子の妹。短大卒業後、大手商社に就職。岳史を「アニキ」と呼び、付きまとい行為を展開した挙げ句、妊娠。なんとしても結婚するとして、樹子を攻撃。幼い頃のトラウマから、人が激しく叱責している場面に遭遇すると失神してしまう。
杉田謙太郎 - 小林稔
樹子と鈴の父親で、材木店経営。やや鈴に甘い面が見られる。岳史を応援している。
三村由美子 - 余貴美子
樹子と鈴の母親。謙太郎とは泥仕合の末に離婚。鈴の出生に関して重大な秘密を握っており、謙太郎を脅し恐喝をする。
 
この番組の主役は、赤井英和鈴木紗理奈だ。この二人が巻き起こす修羅場が本作の一番の見どころである。しかし、赤井英和鈴木紗理奈には荷が重すぎたのかもしれない。いや、重すぎた。赤井英和は役者ではないのでハナっから演技には期待していないのだが、それにしても求められているものが多すぎたのである。
 

赤井英和でなければ成立しない面白さ

 
妻と子供を愛する男。精神科医。妻の妹との過ち。妻への嘘。良心の呵責……。重く深いテーマ。次々に巻き起こる修羅場。主役なので仕方がないのだが、それにしても非常に険しい役どころなのである。なぜこんな難しい役を、演者としてなんの実績も無く、アイドルでもない赤井英和が演じねばならないのか。まず、このシリアス過ぎるカルマにさいなまれる精神科医役に赤井を配役したトンデモ采配が面白すぎるのである。負けると分かっている勝負に真剣に挑むマヌケな精神科医の姿と、喧嘩ボクシングで無双を誇った時代の赤井英和の華々しい姿との対比が、さらに面白さに拍車をかける。真剣であればあるほど面白くなってしまうのである。アホの坂田が袈裟を着てお経をあげているようなものだ。
 

鈴木紗理奈てw

 

とはいえ、赤井英和以外を良い演者で固めてしまっては赤井が活きない。それでは赤井がただのピエロになってしまうからだ。そこで鈴木紗理奈の登場である。鈴木紗理奈というダシと一緒に味わって初めて、赤井英和という大根が美味しくいただけるのである。二人とも誰もが知るゴリッゴリの関西人なわけだが、まいどまいど赤井英和鈴木紗理奈が標準語で修羅場を繰り広げるのである。これがギャグでなくてなんなのか。現実と虚構と大根が入り乱れる破滅的な構図は、あまりにも新しすぎた。
 

袴田吉彦稲森いずみ余貴美子小林稔侍も忘れずに

 

そんな赤井と鈴木が織り成す笑いの泥沼を後ろでしっかりと支えているのがこの豪華な顔ぶれ。袴田と稲森は当時でいう準トレンディー俳優なのである。そしてサスペンスドラマでおなじみの小林稔侍と余貴美子。彼らがまじめに脇役を演じることで、赤井と鈴木がより際立ってしまうのであった。世が世なら公開処刑と言わざるをえないのだが、だからこそ面白いのである。
 

え!? 主題歌ってあのGLAYなの!?

 

なんと、このドラマのBGMは、当時は飛ぶ鳥落とす勢いでjpop界隈をブイブイ言わせながらパンパンしていたGLAYTAKUROが担当しており、全てGLAYの過去の曲で構成されているのである。それだけでも驚きだが、エンディング曲はなんと「HOWEVER」なのである。このシングルは、GLAY初のミリオンセールスを達成したレジェンダリーな曲なのである。そんなGLAYを代表する名曲を、このサイケでシュールなドラマのエンディングテーマに採用した可笑しみもさることながら、注目したいのはその時期である。時期と言われてもピンとこないかもしれないが、この時期にこの曲が採用されるのはちょっとした異常事態なのである。
 
普通、既存のミュージシャンとドラマのタイアップは、これから発売される曲を採用する。もしくは「一つ屋根の下」のチューリップや「ギフト」のブライアンフェリーなど、リバイバルを目的に、過去のヒットソングや名曲を採用する。ドラマの人気にあやかってCDの売り上げもアゲアゲで気分上々!という魂胆なのである。
 
では、このドラマはどうなのか。
 
GLAY HOWEVER 1997年8月6日リリース
 
略奪愛・アブない女 1998年1月9日〜3月27日放送
 
この間およそ5ヶ月。HOWEVERの販売もとっくに落ち着いたころの採用なのである。カウントダウンTVで例えると、100位以下で「あーなーたにーあーえーたことー」くらいしか流されなくなったころである。ってのは言い過ぎだが、ほかにこのような例を私は知らない。ちなみにGLAYの次のシングルは1998年4月29日にリリースされた「誘惑」である。まるでドラマの終了後に合わせて新曲をリリースしたかのようだ。テコ入れというやつだろうか。TAKUROUは実にしたたかである。実は「略奪愛・アブない女」がGLAYの人気を陰で支えていたのである。おみそれしました。
 
とはいえ、この時期のズレは、旬を過ぎたばかりの食材を出されたようなもので、いかに名曲とはいえ普通は興ざめしてしまうのだが、それもまた面白さとして包み込む力強さ、というか視聴者をカオスの彼方にいざなうのが、このドラマなのだ。一度ツボにはまれば何もかもが面白く見えてしまう、という好例である
 

驚愕!赤井英和は二匹目のドジョウだった!?

 

ここで、このドラマについてもう一度おさらいしておこう。
略奪愛・アブない女(りゃくだつあい・あぶないおんな)は、大映テレビ制作、TBSで1998年1月9日~3月27日に放送していた連続ドラマ。主演は赤井英和、助演は稲森いずみ。全11話。平均視聴率14.6%。陣内孝則主演の『ストーカー・誘う女』のシリーズ第2弾といった趣旨で、前回同様、心の病を持つ女性を登場させて、彼女に翻弄される受身の男性の愚かさ、滑稽さなどを描いている。
 
そう、これは第二弾なのである。
 
では、第一弾はどのような作品であったのか。
以下を見て欲しい。
 
ストーカー・誘う女(ストーカー・さそうおんな)は、TBS系列[1]で1997年1月9日 - 3月20日まで放送された日本のテレビドラマ。全11話。放送時間は木曜日22:00 - 22:54。平均視聴率は19.2%、最高視聴率は25.6%。陣内孝則主演 雛形あきこ 小林稔袴田吉彦
 
ちょうど1年前に〜この道を通った夜〜じゃなくて。全く同じ時間帯に、全く同じ内容のドラマがあったのである。いくら視聴率が良かったからってちょっと露骨すぎやしませんか?
 
で、こちらにも袴田吉彦小林稔侍が出演しているのである。同じような役まわりで。もうちょっと考えろよwというかここもまた面白ポイントになってしまうのだから恐ろしい。どのような役も、小林稔侍が演じると小林稔侍になってしまう。キムタクのように。これは揶揄されることが多いが、それは俳優としてとんでもなく有難いことである。選ばれしものしか、この境地にたどり着くことはできない。努力の問題でも技術の問題でもない。そして袴田吉彦小林稔侍にはなれなかったのである。個人的に大好きな俳優なだけに、とても残念だ。2016年現在、はかまだをドラマで見かけることはほとんどなくなってしまったが、運良く見つけたときは、心がほっこりします。あと、ドラマに出てるというだけで顔がにやけてしまいます。このドラマのせいです。
 

これがバブルの底力!!!

 
ま、それはそれとして、こちらも第二弾同様、面白仕立ての作品だったわけだが、第二弾での視聴率が振るわなかったのは、あまりにも突き抜けすぎたからだろう。要するに、調子に乗りすぎたのだ。だが、いや、だからこそ私は、このドラマは当時の製作陣のギャグセンスの全てをこめて作られたのだ、と勝手に思っている。「乾坤一擲」という言葉がこれほど似合うドラマはやまだかつてない。改めて現在と比べると、自由で適当な時代だったんだなあ、と、ハナクソをほじりながら思う。
 
また、両作のヒロインが雛形あきこ鈴木紗理奈だということも忘れてはならない。この二人がTBSの真面目系面白ドラマのヒロインを演じきったという歴史的事実は、当時のフジテレビ「めちゃイケ」がいかに勢いを持っていたかということの証しなのである!
 
そういう意味でも、このドラマを、バブル末期のお笑い文化を象徴する迷作である!と断ずるにいささかの躊躇もない。メロドラマ好きもお笑い好きも、絶対に見て損はしない。是非見てもらいたい。のだが、どうやら円盤化されていないようだ。「ストーカー誘う女」もVHSしかないwおいTBS仕事しろw
 
これは闇に葬るのはもったいなさすぎるドラマなのです。
 
毎年の年末年始に再放送して、永遠に赤井英和鈴木紗理奈を辱め続けて欲しい。これにより、二人のタレント活動はより活発なものになるはずだ。
 
再放送があったら絶対に録画したほうがいいですよ。そして私に下さい。
 

 

 

 

略奪愛アブない女

略奪愛アブない女