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声優の女と濡場

雑記
昔、バイトしていた職場に、一人の女性が入ることになった。
資料整理のために受け取った履歴書を見て、私はアレ?となった。
(どっかでみたことある名前だな……)
記憶の海をもぐってもぐってやっと思い出した。
昔打ったスロットで声を当てていた声優の名前と同じだったのだ。ボーナス中のキャラクター紹介で、その名前を見たのだ。そこでは、かなりきわどい、というかエロいことを言わされていた。
他の媒体の作品がスロット化されたものだが、元々エロい作品だった。きれいな字で書かれた履歴書には、事務所に所属する声優であることは書かれていなかった。インターネットは、このヤジ馬心の萌芽を瞬く間に開花させた。同一人物だったのだ。彼女は、結構名の知れた声優だった。

どんな環境で、どんな思いであのエロボイスを録音したのだろうか。練習とかしたのだろうか。嫌々やったのだろうか。声優として、儲かっていないからバイトしてるんだよな。結構有名な作品にもでているぞ。あんな破廉恥な声まであてさせられてさ。「色気が足らん!」だの「いつもの調子でお願いします」だの「チョメチョメをチョメチョメしてるときのように」だの言われてるのかな。あんなに礼儀正しくて、元気で可愛らしいのに?あんなこと言わされてるの?それでも副業しないとやってけないの?なんて健気なんだろう。なんて妄想が浮かんでは消え、浮かんでは消え。

とりあえず、とても応援したくなったのだが「もしかして声優やってます?」とかそういうことは言えなかった。会社の人も彼女が声優だということは知らなかったようだ。みんなが「良い子が入ったね」なんて言っていたが、声優云々については誰も言わなかった。噂すらなかった。私は、自分だけが彼女の秘密を知っているような気がして、罪悪感と自己嫌悪に苛まれた。部外者が勝手に妄想して悶絶していることって、本人は意外と平気だったりするものなんだけど、当時の私にはとてもそうは思えなかった。白状すれば、その作品の役柄の卑猥さと、彼女のハツラツさや礼儀正しさのギャップと、声優であることを隠しているところに感じる闇というか哀愁のようなものが相まって、彼女のことがとても魅力的に見えたのだ。結局それからほどなく会社は潰れ、そういった話をするどころか仲良くなることもないまま、彼女は記憶の彼方に消えた。

名俳優として世に出た、初代ルパンの声優でおなじみの山田康雄は、声優は俳優の中の一つの仕事だと捉えていた。声優も俳優と同じで体全体を使って表現するものだ、ということのようだ。そんな山田康雄を演劇の世界に誘った熊倉一雄も先日亡くなってしまった。

昨今のアニメは、必然性を感じない、意味なさげなエロ演出やセリフが多いようにも思える。原作にそういうものが多いのだろう。エロゲーもある。彼女のような声優たちは、こうしたアニメやゲームにも、強い信念と自負を持って濡場に挑む一人の女優のようにアフレコに臨んでいるのだろうか。男の方はどうなのだろうか。そう考えると味わい深いものがある。今、アイドルのように活躍する声優たち(アイドルでなくてもいいが)の、そういったエロ演出と演技に対する考えを聞いてみたい。それによって作品のテーマや哲学を掘り下げていくことができるかもしれない。いや、そういった部分は視聴者が勝手に妄想して楽しむべきものなのかもしれない。なんだかんだいっても、わざわざ雑誌やラジオをチェックするほどではないのだが。

ま、そんなわけないか



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